カジツのときめきスムージー

◆旗揚げ/旗織り公演「少女カジツ」の風景より◆

どこからか、過日といまとを繋ぐ歌声がきこえる。

ー朝は焼け 昼は燃え

誰そ彼の記憶握りしめ

乳のみ児は 眠る眠る

言花散りて 夢みのり

蜜に浸した うそまこと

再結晶を待つ血潮 少女の素肌尚白くー

闇の中に知恵の実を齧る音が響く。

―過日 保健室―

空間が輪郭を取り戻すと、保健室の様相。

学生服の男女が林檎を手に座っている。

男子学生、林檎を齧る。

女子学生、夢見心地の瞳で、空間を見渡す。

「ああ……」

女子学生、声を漏らす。

「ん?」

「え?」

「いや、今、ああ、って」

「うん」

「うん。何?」

「そのまま食べるんだね、りんご」

他愛ない日常。

ふたりの間には、なにか親密な、優しい時間が流れている。


―果実 夢―

彼女は真摯に、だれでもない誰そ彼に向かって話し始める。

「だけど例えば生きているかどうかだってたいした問題じゃないと思うんです。

どちらにしてもみんな自分の勝手なイメージとしゃ べっているだけなんだから。

どうしたって、思ったことは、感じたことは本当で、もう思ってしまったんだから。

だから、現実だとか夢だとか、夢だから現実じゃないとか、

どちらが正しいとか健全だとかそんなの、

……そのとおりだけど、どうしようもないんです。

だって、」

「みのり」

鈴のような声とともに、夢の空間が浮かび上がる。

そこは、彼女にとっての楽園。

本の森か深海の図書館か、書物に埋め尽くされた空間。

柔らかな寝具の上には、とびきり愛らしい少女の姿。一冊の本を眺めている。

「……コレ」

彼女は、名を口にすることさえ胸がざわつく切実さで、

少女の名前に声をのせる。

少女は静かに、はにかむ。


ー心象 果実少女ー

(夢をみる。少女のゆめをみる。

冬の真昼の澄んだ香りをただよわせて少女はわらう。

初雪の上を駆ける足音のような声で彼女はわらう。

夢をみる。少女の夢をみる。いつか焦がれた少女のゆめをみる。

彼女の肌は白い。そのまま透けて消えてしまいそうなほど白い。

だけれど雪のような白の下には、爛々と、真っ赤な血液が流れているのだ。

少し、ほんの少しきずつけただけできっと溢れて零れ落ちてしまうだろう。

それはきっとルビーのように美しく、

そしてきっと、

甘い)

◆◆◆

※『少女カジツ』(再演):https://sippe60.amebaownd.com/posts/2594038?categoryIds=227815

あの日、交わした秘密。

其れは誰のためのものだったろう。

誰にもいわずにしまった胸の内はいまでも、

褪せないときめきの、蜜の味。

シッペの島

企画団体シックスペース公式website。 ことばの海に浮かぶ小島のような場所。

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