モルフィンの夢色サイダー
◆旗刈り公演「モルフィンの伽唄」の風景より◆
ー未来のいつか と或る退廃都市ー
文明や技術はある時点から、発展を遂げることを止めてしまった。
ゆっくりと、衰退と荒廃、そして堕落を進めてゆくせかい。
倉庫のような雰囲気の、がらんとした空間。
そこには黙して、多くのガラクタの気配が積み重なる。
その中で明確に視線を惹きつける真っ赤なテント小屋。
非日常を内包した旅団と、死にゆく街角の日常が、このせかいの舞台である。
これは旅回りの一座「夢遊旅団レーテ」の面々と、その観客のものがたり。
あるいは、麻薬売人と麻薬たち、その中毒患者のものがたり。
あるいは、ものがたりを贈るぼくらと、あなたのものがたり。
ー街はずれのフィナーレー
壊れかけの青年の手を引いて、少女ーモルフィンーが現れる。
青年は足をもつれさせ崩れ落ちる。進むことは諦め、少女は彼の傍に座る。
「シャルルがレーテに来た日、自分のこと色々はなしてくれたでしょ?」
答えない青年に、ひとりごとのように彼女は語り続ける。
「あの時わたし、なんて可哀想なひとなんだろうって思ったの。
だからその分このひとにはたくさん幸せになって欲しいなって、
幸せにしてあげたいなって。でも、
……私が唄ったって、ほんとうはあなたの痛みを取って上げることは出来なかったんだ。
あなたの宝物をガラクタにしちゃった。
痛いことも怖いことも。結局全部私が、」
青年がふいに首をあげる。視線の先には赤い、芥子の花。
「どうしたの?あ、ちょうちょ、……」
少女は、花にとまる蝶を見ながら呟く。
「ねえ。どうして、生まれてきちゃったのかな、」
青年、少女の顔をじっとみる。
「シャルル?」
「こもりうたって、ねむる為に歌うんでしょ」
「……」
「うたって?」
少女、呼吸をおき、歌いだす。
重度の中毒患者にはすでに気休めにしかならない、モルヒネの薬効。
しかし青年はしあわせそうに、夢の中の蝶をひとみに映しながら、
「きれいだなぁ」
と、か細く零し、眠りにつく。
壊れたせかいの果ての果ての果てではいまも、
誰も知らない音楽が泣いている。
それは、 聖母の子守唄よりやさしく、
天使のハミングより透明で、
道化の口笛より愉快な旋律。
◆◆◆
※『モルフィンの伽唄』:https://sippe60.amebaownd.com/posts/2588427?categoryIds=227815
現実と連なるものがたりでは迎えられなかった幸福な結末を、
例えばここで想像するのはどうだろう。
たったひとしずくで、せかいの色がかわるような。
はじけるときめきと優しさで出来た音色を、飲み干してみるのは。
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